ただ眠いんだ

"人生はコメディだ!"

伊坂幸太郎の王道「モダンタイムス」について

実家に忘れてきました。何を?勇気を。
伊坂幸太郎『モダンタイムス』 Morning NOVELS、2008年、P.3

はてなブログ今週のお題である「プレゼントしたい本」について。まあ、平たく言えばオススメしたい本なのだけど。
その本は伊坂幸太郎の「モダンタイムス(2008)」である。


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あらすじ

SEである渡辺拓海は、失踪した先輩社員の五反田正臣に代わり「ゴッシュ」という会社からの出会い系サイトのシステム改良の仕事を任される。
しかし、システム内の暗号化された部分の仕様がわからず、さらにゴッシュには連絡がつかない。五反田正臣が残した複合化ソフトを使用し解析してみると、特定の検索ワードによってページにたどり着いた者の個人情報を調べ、どこかに送信しているということが判明した。

そしてそのサイトを検索し、アクセスした者に次々と不幸が降りかかる。まるでその事柄に興味を示した者に危害を加えるように。

浮気はよくない

実はこの本、読み始めからいきなり主人公が見知らぬ男に拷問されている。その理由は「妻に浮気を疑われて、拷問をお仕事にする人が雇われた」からである。
まあ、この浮気に関してはそこまで強く本筋に絡んでくる訳ではないのだけど、なかなかとんでもない始まり方だ。そこで冒頭に引用した勇気に関する一文が登場する。
勇気と言ってもいろいろある。主人公は実家に勇気を忘れてきたと自認しているが、浮気はしてしまった。浮気をする勇気はあったけどしない勇気はなかったのだ。

あまりにも偶然が重なると、人はそれを運命と感じたりするらしい。 「女性は運命的な出会いに弱い」なんてことをよく言う。それは現実でも、作中でもたびたび口にされるが、渡辺拓海は運命的としか言えないような形で仲良くなった女性と不倫してしまったのだ。運命に逆らう勇気は彼になかったのかもしれない。

では、その運命が「なにか大きな力」によって仕組まれたものだったとしたら?

まあ、それはひとまず置いておくとして、浮気はよくないことだ。

物事を動かす大きな力

作中で何度も「大きな力」「そういう風になっている」「仕組み」というように形容される、「なにか」がある。
伊坂幸太郎の小説を読んでいると、「なにか」という一個人の力では抗えないような何事かがよく描かれている。
そして同時に「なにか」を主人公が倒して大団円…なんてわかりやすい話は伊坂幸太郎作品にはないのだ。

『魔王』ではそれは「大衆」であった。「風」とも呼ばれるような、大衆を動かす雰囲気のようなものが、カリスマ政治家によって作り出されていた。主人公はその「風」と超能力で戦おうとした。
『ゴールデンスランバー』ではそれは「国家」もしくはそれに準ずるものである。主人公は証拠を捏造されて、首相暗殺の容疑をかけられ逃走することとなる。

そして『モダンタイムス』の中では「システム」「仕組み」と呼ばれるものと、個人の対峙が描かれる。
ひとりひとりの仕事が、最終的に誰かの人生を理不尽な形で損なわせる。しかし、仕事をしているひとりひとりにはなんの罪悪感もない。ただ指示に従っただけであり、ひとりひとりには責任がない。
そんな「システム」と個人との戦いなのである。

誰かひとりが諸悪の根源で、それを倒せばすべてが丸く収まる…という話では決してない。
ひとりがいなくなっても代わりに誰かが入るのが「システム」なのだから。

伊坂作品の王道である

伊坂幸太郎の小説はいくつかのカテゴリに分類できると思うのだけど、これは「大きなものに抗い系」である*1
ハードカバーで550ページ近くあるので、かなりの読み応えがあるし、「これにて一件落着!」といったようなラストでもない。かなり疲れる小説ではある。
しかし読後感はなぜだか結構爽やかである…という不思議な小説である。

どういう人にプレゼントしたいかと問われれば、とりあえずインターネットに興味がある人、そして浮気性の友人にといったところだろうか。

*1:「エンターテイメント系」としては『陽気なギャング』シリーズ、『オー!ファーザー』などなど