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『名称未設定ファイル』…挑戦と安定の小説

主にTwitterで活躍するダ・ヴィンチ・恐山さん…の小説家としての名義、品田遊の小説第2弾『名称未設定ファイル』が、キノブックスから発売された。
最初の小説『止まりだしたら走らない』がかなり好きだったので、今回は6月半ばに書店で予約した。6月30日に発売…のはずが、7月3日に店に届くという若干悲しい出来事がありつつもなんとか入手した。

『止まりだしたら走らない』は中央線の乗客達の話だったが、『名称未設定ファイル』はインターネットとその周辺で起こる出来事がテーマとなっている。インターネットはダ・ヴィンチ・恐山のホームグラウンドじゃないか。

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インターネットのあれこれを観察する本

今回は短編が17本(もしくは16本)。ショートショート作品集と言った装いだ。
扱うテーマは、ネット炎上、ネット通販のおすすめの商品、YouTuber、アフィブログ、匿名掲示板などなど、インターネットを見ていれば一度は関わりを持ったことがあるであろう出来事だ。中には明らかに「はてな匿名ダイアリー」であろう描写も登場する。

その様々の出来事が、あくまで一歩引いたというか、観察者的立ち位置で語られていく。

例えばネット炎上にありがちな、「特定班」と呼ばれる人だったり、そのまとめを読んでいる人については、

よく見ず知らずの人間を調べるモチベーションが湧いてくるものだ。世の中、思った以上に暇な人間が多いらしい。
(品田遊『名称未設定ファイル』キノブックス、P.26)

ネット通販のオススメに身を任せる話では、

全てを一色に塗り替えてしまうのだけが支配じゃない。きっと、いろんな人形を配置して好みのジオラマを作るような支配もある。
(同上、P.65)

などなど。

おそらくダ・ヴィンチ・恐山と言う人は「大勢の人がみんな一緒に動く」ということに違和感がある人なのではないかと思う(違ってたらごめんなさい)。

仕掛けが盛りだくさん

この本にはいくつかの仕掛けがある。
例えば、読み進めていくといきなり上下が逆になったページが出てくる。ページをめくると、それは文字が横書きになっているショートショートが始まる。縦書きの本の中に横書きの部分があるから上下が逆なのだ。最初、乱丁かと思ったよ。
ちなみにそのタイトルは『亀ヶ谷典久の動向を見守るスレpart2836』*1であり、どこかの匿名掲示板にある、亀ヶ谷典久という一般人の動向を実況するスレッドの様子を書いたものである。

さらに、『1日5分の操作で月収20万!最強ブログ生成システムで稼いじゃおう』*2では、適当なワードサラダでアフィリエイト収入を得るサイトを生成するシステムがバグっていく様子が描かれているのだが、これがまた不安感を煽る。

美容ブログ、とっても大切ですよね。皆さんはこのブログを読んでいますか?不安ですよね。なんのために?ぜひお買い求めください。心配ですよね。とっても不安です。私は30代なのですが、私は必要があるのでしょうか?私は自動で生成する驚きの効果なのですが、私は必要があるのでしょうか?ぜひ読んで参考にしてくださいね。
(同上、P.128)

こういう文章が連なっているのだ。美容ブログ・アフィブログにありがちな「心配ですよね」「ぜひ読んで参考にしてくださいね」という文章と、おそらくその自動生成プログラムをいじっている人の不安、自動生成がバグった支離滅裂な文章。え、これって、小説の枠に収めちゃって大丈夫なやつ?

読み進めながら、ダ・ヴィンチ・恐山さんのマンガの著作『くーろんず』を思い出した。コミPoという3Dモデリングで、絵が描けなくてもマンガを作成できるというツールで作られたマンガだ。ちゃんと月刊誌で連載もされていた。
ダ・ヴィンチ・恐山さんは『くーろんず』で絵を描かなくてもマンガはできる!というのを示した。じゃあ、今度は『名称未設定ファイル』で、小説の形でなくても小説になる!というのを示そうとして、それにまんまと成功したんじゃないかと思う。そんな挑戦を感じた。

もちろん、細かい仕掛け以外にも読み物として普通に楽しめる部分が多い。特にインターネットをよく見ている人にとっては身につまされること満載。
『止まりだしたら走らない』でもあった、人の内面に憑依するような感覚もしっかり残っていて、安定感を生み出している。

暇つぶしといえばスマートフォンでインターネット…という人にはかなりオススメの本である。
ちなみに、最後には袋とじもついているぞ!好奇心をくすぐるね!

*1:短編のタイトルである

*2:繰り返すが、短編のタイトルである