ただ眠いんだ

"人生はコメディだ!"

ゲームセンター黙示録

高校生のころ、人に付き合ってゲームセンターに立ち寄ったことがあった。よく言えば老舗、有り体に言えばボロボロという個人経営のゲームセンターであった。

ゲームセンターには大きく分けて3種類ある。ショッピングモールの中にあるようなキッズ・ファミリー向けのもの。どんどんと新しい設備を導入していく大型チェーンのゲームセンター。そして最後が、景品が最後に入れ替わったのはいつだろう…となる個人経営のゲームセンターである。

こういっては悪いけれど、個人経営のゲームセンターの場末感が好きだ。
2018年にもなって、未だに黄ばんだ『アナと雪の女王』のオラフが景品としてぶら下がってるのを見ると、いろいろとこみ上げてくるものがある。

話を高校時代に戻そう。僕をゲームセンターに引き込んだ彼は、UFOキャッチャーに関する豆知識を語ってくれた。
話半分で聞いていたので内容はうろ覚えであるが「景品の豪華さで人を呼ぶための台があって、そこの商品は取れない」「何回も連続でやっているとアームが閉じる力が強くなる」「しっかりと狙えば、どんな商品だって取れる」という感じだったと思う。あれ、最初と最後で矛盾してないか?

そのゲームセンターは個人経営も極まっていて、おそらく「電気代がもったいないから」という理由でいくつかのゲームの電源が抜かれている、ほとんど景品が入っていないゲームがある…などなど、「経済って不思議だな」と思わせてくれる状態。ちなみにお客さんは僕ら2人だけ。潰れていないだけで既に奇跡だ。
それに加えて、どうやらスタッフはおじいさんひとり。奇跡のワンオペ経営。

色々なところに驚嘆していたところ、友人はおもむろにUFOキャッチャーの前で立ち止まり、ゆっくりと「この台は、取れる」と宣戦布告。どうやらONE PIECEのちょっとエロいフィギュアに狙いを定めたようだ。高校生にはちょっぴり刺激的なやつだ。

かくして彼の戦いは始まった。「最初にいきなり取りに行くんじゃなくて、取りやすい位置に移動させるんだ」と言いつつ、箱の近辺にアームを当てて移動させていく。偉そうにうんちくをたれるだけのことはある。200円ほどで移動を終了させ、あとはアームで挟むだけ…
しかしそう簡単にはいかない。しっかり挟んだように見えたアームが、フィギュアの箱をすり抜けていく。店の経営状態に対して、アームが忖度しているかのような弱さ。
2000円ほどが筐体内に入っていき、諦めムードが少し流れ始めた頃だったろうか。店のおじいさんが近付いてきた。箱をしっかりと捕らえるには、箱を見ていてはいけない。視線を固定して、他の景品との位置関係をしっかりと見定めてボタンを押すんだそんなアドバイスをしたあと、おもむろに筐体を開き、商品を移動させた。どうやら少し取りやすい位置にしてくれたらしい。
そんなことを言われたら諦めムードは撤回にもなる。おじいさんはなぜか少し離れたところにある太鼓の達人の筐体に寄りかかってこっちを見守っていた。

3000円が飲み込まれた。4000円が飲み込まれるのも一瞬だった。両替に行く彼の目は血走っていたように思う。蟻地獄というのは転がり落ち始めたら早いのだ。
500円が飲み込まれていくごとにおじいさんが近寄ってきてアドバイスをしてくる。あのおじいさんはそういう仕掛けなのだろうか。

僕も何度か「もう辞めといた方がいいよ」と言おうとしたのだけど、彼のこの世の全てをぶち壊してやる!といわんばかりの目になにも言うことができなかった。途中からは少し前に金曜ロードショーで放送していた『賭博黙示録カイジ』が脳裏に浮かんでいた。藤原竜也が叫んでいたなあ…
いよいよ5000円が飲み込まれていこうとしている。社会人になった今でも5000円はそこそこの大金なのだ。高校生にとっての5000円は…

しかし、終わりはあっけなかった。当然のようにおじいさんが現れ、UFOキャッチャーを開け兄ちゃん、下手すぎるからこれあげるよといって景品を手渡してきたのだ。
なんたる屈辱だろうか。5000円が無為に飲み込まれていき、最後はおじいさんだけが持っている鍵によってゲームの全てがひっくり返されたのだ。おそろしい。全ておじいさんの手のひらの上だったのだ。

諦めムードを察知してアドバイスを送ってきて、「もう1000円使ったのだからここで辞めたら無駄金だ」という心理を作り出し、さらに無駄金を使わせる。
それでありながら「さすがに金を使わせすぎた」と思えば強制的にゲームを打ち切る。あれは果たして、おじいさんの中の良心の呵責だったのかもしれない。
ただ、それもおじいさんの戦略の内なのかもしれないが…

その後ONE PIECEのちょっとエッチなフィギュアがどうなったのかはわからない。
先ほどまでギラギラしていた目が嘘のように虚になってしまった彼は、別れるまであまりしゃべらなかった。そんな彼のトラウマに触れることは、さすがにできなかったのだ。

ギリギリ個人経営と思われたゲームセンターは未だに営業を続けている。今もおじいさんの手のひらの上で踊らされている人が絶えないのだろう。あれはもはや伝統芸能の域に近いと思われる。
高校生の頃から考えればもう10年近くの時が経った。それでもあのゲームセンターに入ったら、あの時と変わらない姿のおじいさんが、太鼓の達人に寄っかかってこちらを見ているような気がするのだ。